イベール 水晶の籠

コンクール

今回はイベール作曲の「物語」より 水晶の籠 を取り上げます。今まで数曲の演奏のヒントを書いてきましたが、決して「こう弾いてください!」という気持ちではありません。私自身、考えが変わって弾き方を変えて行きますので、現時点の提案を書いています。こんな弾き方や考え方もあるんだな〜と感じていただけたら幸いです。

この曲も前回のインベンション9番とともにスカイプでレッスンさせていただきました。

私がイベールの作品に初めて触れたのは確か小学生高学年の時です。3歳下の妹が「小さな白いロバ」を本番で弾くことになり、数ヶ月よく聞いていました。イベールの作品は、最近はコンクールで課題曲になったり演奏されますが、当時は割と珍しかったのではないでしょうか。
あまり聞いたことのない雰囲気や響きに、小学生ながら「なんておしゃれな曲なのだ!!」と感動したのを覚えています。

その後は縁がなかったのですが、大学1年生の時フルートの先輩の試験で伴奏することになり、それがイベールのフルートコンチェルトでした。全楽章・難しい・先輩の伴奏 というプレッシャーの中、若い私はさらうのに一生懸命でしたが、レッスンでの先生のお話や、先輩と音楽を作る中で、いつのまにかイベールの音楽に魅了されていました。

イベールってどんな人?

日本ではピアノの学習者、音楽愛好家には知られいても、知らない方も多いと思います。フランスでは重要な職務を歴任するなど、フランス近代音楽の重要な作曲家の1人として位置づけられています。

ジャック イベール(1890〜1962)

パリ生まれ。父はヴァイオリンを趣味で演奏し、母はピアノがとても上手だったので、幼少より音楽に触れていました。
ファリャの勧めで、パリ音楽院を受験、1911年からパリ音楽院で作曲を学び、ミヨーやオネゲル(フランス6人組と呼ばれる)と出会い交流を深めました。1914年第1時世界大戦が始まると、体が弱いにもかかわらず志願して海軍士官になり、終戦までつとめます。自分が死んだ時に演奏する為に交響曲「海」を書くなど、イベールは海が大変好きだったようです。
1919年にフランスの作曲家にとって最大の登竜門であるローマ大賞を受賞し、作曲家として脚光を浴びはじめ、1920年代は充実した作曲活動を行いました。ローマ大賞の副賞で3年間のローマ留学をし、留学中に地中海各地をおとずれ、シチリア島とチュニジアを旅行後に作曲したピアノ作品「物語」や管弦楽曲「寄港地」によってイベールの名は大きく広がります。その後バレエやオペラ作品を書きフランスの作曲家として地位を築くと、1930年代にはオーケストラ作品や協奏曲を多く書きました。イベールは交響曲、室内楽、弦楽四重奏、各楽器の独奏曲、オペラ、バレエ音楽、映画音楽など様々なジャンルの音楽を書いています。
日本とも関係があり、1940(昭和15)年が『日本書紀』に書かれた神武天皇即位から2600年に当たるとされ、それを祝うために日本政府の依頼により、「祝典序曲」を書いています。山田耕筰の指揮により1940年12月に日本で初演されました。


また、パリ音楽院の教育委員会を務めたり、ローマ留学時代の滞在先であったフランス学士院の院長としてパリとローマを文化交流で繋ぐ役目に献身的に取り組んだり、パリ・オペラ座とオペラ・コミック座を統括する国立オペラ連合の理事など公的な職務も数々こなしました。

ピアノ音楽は今回取り上げる「物語」(1922)の他に「スケルツェット」(1917)「めぐりあい」(1921)などが挙げられますが、小品か、小品を組み合わせたもの(小品集、組曲)の1曲が短いもので、またほとんどが1930年くらいまでの初期に書かれています。おしゃれな雰囲気で、すでに室内楽やオーケストレーションを感じられるような色彩豊かな作品となっています。

「物語」より 水晶の籠 演奏のヒント

全10曲の小品集「物語」の中の8曲めです。「物語」はローマ留学中の旅行から帰った際に、各地の印象や見聞きしたことを表したと言われています。どの曲も楽譜の最後にカッコ書きでひかえめに副題が添えられていて、この曲には La cage de cristal(水晶の籠)と書かれています。

楽譜には、たくさんの細かい指示やアーティキュレーションも書いてありますから、まずはそれをよく見ましょう。先入観や決めつけは捨てて細部まで見ましょう。指示は細かくしてくれいますので、強弱やスタッカートやテヌートの有無である程度の世界観ができそうです。
もう少し踏み込んで勉強するヒントとして、他の楽器で演奏するのを想像し音色を作るのはどうでしょうか?
私はピアノ以外は演奏できませんが、この曲を木管アンサンブルで編曲・演奏したらどんなに楽しいかと思います。「小さな白いロバ」の出だしの左手や「水晶の籠」の出だしの左手はぜひファゴットがいいなあ・・・と。続く解説にもこんな楽器がいいかな〜と当てはめながら考えていきましょう。

 

 

それでは始めます☆

Un peu vite 少し速めに

1から6小節め

1〜4小節め ワクワクするような出だしです。ほんの少し東洋のエキゾチック感もあるような。テンポはこれからのことを考えて、あまり早すぎないほうが良いかと思います。左手にメロディーがあり、フランス語でSoutenuとあります。意味はソステヌートと同じですから、程よく保ちながらたっぷりした感じで弾きましょう。これをファゴットやサックスで演奏するとイメージしてみましょう。1から2小節目に入る時切れないように心がけましょう。
右手は8分音符に8部休符ですから、スタッカートがついたように短すぎないようにしましょう。こちらもフルートやクラリネットなどで担おうと想像すると良いかもしれません。右手は3人の奏者が息を合わせて演奏することになりますから、それを考えただけでピアノの弾き方が変わりそうです。左手のメロディーとのバランスを聴きながら、横のラインも感じましょう。2小節目の1,2拍目が高くなっていますから高さを感じてニュアンスをつけられるといいですね。
3小節めはpになっていますからもちろん変化をつけて、4小節目は3拍目あたりでテンポを落ち着ける演奏が多いと思いますが、急に立ち止まる感じにならないように気をつけましょう。

5〜9小節め 雰囲気ガラッと変わりまして、5,6小節めはppLégerとあります。優美に軽く、という意味です。右手は音域的にもフルートでしょうか。装飾音符が可愛さを演出しています。5小節めの3拍目と6小節めの1、2、3拍目の連打は、裏拍が出過ぎないように気をつけると良いですね。左手は5小節めはあまり裏拍が出過ぎないように、6小節めは綺麗なメロディラインになっているので歌いましょう。雰囲気を変えるぞ!と気負いすぎて急ぎすぎる可能性がありますので、左手の出だしのシとファ♯の間にの間隔をほんの少し(自分にしかわからないくらい)空け気味にルバートを感じましょう。
7小節めはここだけrfで、Accentuez(アクセント)の指示があります。右手の前打音が潰れないように注意しましょう。手首で押さないように気をつけましょう。クラリネットやオーボエで演奏するのはどうでしょうか。
8小節めから9小節めは再びppで。音域が下がるのでu.c.(弱音ペダル)を使用するといいですね。右手はここも前打音が潰れないように気をつけましょう。指の出し入れをしっかり、なんの音を弾いているのか把握しましょう。
左手はこの5小節間、常に安定して指先のコントロールが必要ですので、指番号の選択も大切になてくるかと思います。

7から14小節め

9〜14小節また雰囲気が変わり、9小節めの3拍めから11小節めの2拍めは今度は4人でしっかり息を吸って、揃えて行きます。フルート、オーボエ、クラリネット、フェゴット奏者が1人1声部担うつもりで弾きます。
11〜13小節はEn badinant(おどけて),かつDoux(甘く)の指示があります。甘くということで、ここはフルートに右手の旋律を演奏させてみましょうか。メロデーの音型は「牧神の午後への前奏曲」の冒頭に似ていますね。「牧神の午後への前奏曲」では牧神がまどろんでいますが、この曲もこの4小節間で夢の世界へ誘われて行くように感じます。実際、27小節までは七の和音や九の和音が続き、常に浮遊しているような曖昧な響きが続きます。
出だしは少し伺うような感じで、ほんの少しルバートを感じても良いと思います。左手の四和音はメロディーに添える感じで、4つの音に均等に重みを乗せる感じで押します。

15から25小節め

15〜20小節目 夢の世界に入りました。もし主人公が空っぽの鳥かごなら、かつて中に住まわせていた美しい鳥の歌を思い出すところでしょうか・・・。主人公が籠の中のお姫様ならば、籠から出て小舟にのり、海に漕ぎ出して愛する人の元へ・・・(飛躍しすぎでしょうか^^;)
14小節目3拍めから楽器はオーボエの憂いのある音色がしてきたらいいなあと感じます。バスにテヌートがついていますので、少し重めに、(もちろんバランスを聞いてください)、また、和声は全て左手でとる方が弾きやすいですね。その際バスはペダルから漏れないようにできる限り長めに弾きましょう。15.16小節をひとまとまりにして、15小節の4拍目あたりに山を感じます。メロディーの3度上行を歌うのはもちろん、左手の4拍めの和音(ドミソシ)も山を感じましょう。
16小節め4拍め裏でブレスして20小節めの終わりまで大きくはひとまとまりに感じましょう。
20小節めはディミヌエンドしながらゆっくりします。短かった夢がもう終わりそうです。

21〜27小節め 冒頭のメロディーが、右手の内声に現れます。Le Thème en dehors(テーマを浮き立たせて)とありますね。私のイメージだとアルトのメロディーをクラリネットのやさしめの音色で入り23小節めくらいから膨らませて行き、25から27小節めあたりでdim.でおさめるというのがきれいかなぁと思いました。楽器が違えば音色も違いますし、スムーズにいくでしょうね、、、
しかし実際ピアノで右手だけで弾き分けるのは結構難しいです。アルトを綺麗に浮き立たせるのがまず少し大変です。出だしのアルトは親指で弾きますが、まず張り切ってぶつけやすいし、でもしっかり弾かなければソプラノに負けます。また、クラリネットのように柔らかな音色で入り長くクレッシェンドしていくことは困難に感じます。かと言ってずっと一本調子で弾き続けるのもあまり面白くないですね。理想とは違いますが、冒頭とおなじく、21小節めはたっぷり目に出し、23小節めで少し音量を落とせるようなら落とすのも1つの方法だと思います。
21から22小節めに入るところでソプラノは切って、アルトのメロディーはつなげなければなりませんので指番号も工夫が必要ですね。
26小節め曖昧な感じを醸し出して、ペダルもあまりクリアに踏み替えすぎないほうがいいかもしれません。27小節めの頭も「ミー」とクリアに入らずに、指はじんわり押し、ペダルは少し遅れて踏み変えるくらいの方がだんだんミがクリアーになりちょうどよく感じます。

26から32小節め

28から32小節め 再び5〜9小節目のパッセージが現れます。しかし指示に色々変化があります。まず、Plus vite, et en pressant jusqu’à la fin (少し速く、終わりまでだんだん急き立てて)そしてpppGai et léger (陽気に、優美で軽く)とあります。これを同時にするのは難しいですが、陽気に、優美に軽くという言葉がこの曲全体を表すのに相応しい言葉だなあ、最後に持ってくるんだ・・・と思いました。28、29小節では「終わりまで急き立てて」の指示よりは、陽気さと優美な軽さを優先しようと思います。
5小節目の時よりも、出だしのルバート(左手のシとファ♯の間に少し長めの空間を感じる)を少し大げさにして良いと思います。いきなり速くすると、右手の1、2拍目にテヌートが付いているのも弾き飛ばしがちになってしまうと思いますので、いい感じでノれるように程よいルバートを探して練習しましょう。ルバートしたのち28小節の終わり〜29小攻め頭で元のテンポに戻しましょう。(それだけで速くなったように聞こえます。)
また大きな変化として29小節目の左手がスラーとスタッカートになり、強弱までついて「絶対歌ってね」と言っているようです。絶対歌いましょう^^;
最後3小節ですが、30小節め左手のテヌートが取れ、rfの指示もなくなっていますのでここで少し前に流します。目の前からふわっと籠が消えて無くなったかのような不思議な感じを残しましょう。

 

ピアノ以外の楽器の音色を想像して演奏の研究をするのは一つの方法だと思います。実際ベートーヴェンのソナタは交響曲とリンクするところがあり、ピアノの中にオーケストレーションを感じることは必須です。
ピアノ以外の楽器のコンンサートに行ったり、オーケストラのコンサートの行ったり、すぐに行けない場合はCDやDVD、テレビやネットなどでも見れますね。自分の演奏の糧になっていきますので、他の楽器にも興味を向けて見ましょう!

 

 

 

  

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