暑くなってきましたね。天候はじとっとしてあまり好きではありませんが、お花はすごく綺麗な季節ですね。町のいたるところで紫陽花がとても綺麗に咲いています。
先日、比叡山延暦寺の近くにある、ガーデンミュージアム比叡というお花がとても綺麗なところに行きましたが、たくさんの種類のバラやラベンダーなど、お花が本当にたくさん咲いていて、素晴らしかったです。特に、モネの睡蓮を模した池があるのですが、蓮が咲いて感動しました。(前回は秋に行ったので咲いていなかったのです。)
しかもすごく涼しい!この夏もう1回くらい行きたいです。
近畿圏にお住いの方はぜひオススメです。
さて、今回はハチャトリアンの「少年時代の画集」からバースデーパーティー を取り上げます。ハチャトリアンといえば、「剣の舞」、または浅田真央さんがフィギュアスケートのプログラムで使った「仮面舞踏会」でしょうか。あの時はいつも爽やかで可愛らしい真央ちゃんが、大人っぽく妖艶な衣装・雰囲気になり驚いた記憶があります。
バースデーパーティーという曲は、題名からして限りなくハッピーな雰囲気かと思いきや、そうでもありません。
本当に誕生日?
リズムはすごく楽しげなのに、なんだか心がざわっとする感じすらあります。
それこそ仮面舞踏会のような、ちょっとドキドキした感じ。
しかし可愛らしいワルツのリズムからは幼さを感じます。曲の最後の方は「待ちきれない!」というようなワクワク感もありますし。
・・・魔女のバースデーパーティーならしっくりくるかもしれません!
この絶妙な空気感を醸し出すのはハチャトリアンならではの作曲技法です。
初めて触れた生徒さんたちは大抵ハテナ顔から入っていきますが、ただ音符を弾くだけでなく、ハチャトリアンという人や時代に触れて、楽しんで弾いてもらいたいですね。
ハチャトリアンってどんな人?
アラム・ハチャトリアン(1903〜1978)
ロシア帝国内のグルジア生まれ。グルジアは、北側にロシア、南側にトルコ、アルメニア、アゼルバイジャンと隣接する地で、古来より数多くの民族が行き交う交通の要衝であり、幾たびもの他民族支配にさらされる地にありながら、キリスト教信仰をはじめとする伝統文化を守り通してきました。ハチャトリアンはアルメニア人の両親のもとに生まれたアルメニア人ですが、このような環境の中で、各民族の音楽に触れて育ち、それが彼の作曲の原点になっています。
1925年当時19歳だったハチャトリアンはモスクワのグネーシン音楽学校に入学しチェロと作曲を学び、さらに29年モスクワ音楽院で作曲を学びました。学校で習得した西洋的な作曲技法と彼が持っていた民族的な音楽を融合させた新しい手法で作品を書き、それは聴衆や国にも受け入れられました。1942年に代表作であるバレエ「ガイーヌ」で大成功を納め、翌年にはスターリン賞を受賞しました。ところが、交響曲第3番を書いたところで、カバレフスキーの記事でも出てきた、ジダーノフ批判(1948年に国が前衛的な曲を排除するという芸術統制)の対象となってしまいます。(その後の作品で名誉を回復することになります。)
1956年からは母校であるグネーシン音楽学校とモスクワ音楽学校で教授となり、作曲だけでなく指揮者としても活発に活動し、日本に来日したこともあります。
「少年時代の画集」は第1曲目が1926年に、他の9曲(バースデーパーティー含む)は1947年に書かれました。
ピアノ作品はそれほど多くありませんが、ピアノ協奏曲やトッカータなどは音が多いぶん、さらに民族音楽の影響が現れています。弦をかき鳴らすようなパッセージや強烈な連打などがカッコよく登場し、インパクトの強い作品になっています。
さあ、弾いてみよう!・・・その前に
今回はインベンションの時のdoremiちゃんと勉強していきます。doremiちゃんのようにインベンションやソナチネを数曲経た生徒さんには、この曲集は技術的にはそう難しくなく感じると思います。しかし、この不思議な雰囲気はなぜなのかを知り、楽しく弾くには、フィーリングだけではなく知識が必要です。
調号がない!やったー!と思ったら臨時記号がか多いよう・・・(T_T)
確かにそうですね。譜読みがちょいと大変かもしれません。でも始めにいいところに気が付けましたね!
半音階が多いため、調性があやふやな場面もありますが、今何調かなと考えながら弾いてみましょうね。ちなみに冒頭は何調かわかりますよね?
ファとドと、ソとレにシャープがあるから・・・ホ長調?
正解です!(・・・ほっ)
最後もちゃんとホ長調の主和音で終わっていますよ。
「少年時代の画集」の他の曲を見ると、スケルツォやエチュードなども調性を感じるのに無調で書かれていますね。
後期ロマン派から無調音楽の流れはありましたが、20世紀になってシェーンベルク(1874〜1951)というオーストリアの作曲家が12音技法を使って作曲した頃からかなり無調の方向へ進みました。他の国でも差はあれども無調化は進んでいて、ハチャトリアンもその時代の中にいました。シェーンベルクの12音技法を使ったような曲は完全に調性から離れたものだと言えますが、この曲はそのような時代の影響を受けながらも、調性を感じる無調音楽ですね。
ハチャトリアンに染み付いている民族音楽、音楽院で学んだ西洋音楽、調性から離れようとする無調音楽化の時代の中で作られた音楽というわけですね!
独特な感じになるはずだ・・・
※12音技法・・・1オクターブ内の12の音を均等に使用することにより、調性から離れようとする技法
バースデーパーティー 演奏の手引き
〈第1部〉1〜36小節
1〜4小節め 4小節の前奏です。3小節目に山が来るようにしましょう。どの音も弾みを感じて弾きましょう。付点四分音符、付点二分音符は、上に響かせるつもりで。肘で力を逃し、肘で音を切る感じです。1、4小節目の連打は潰れないよう丁寧に弾きます。
2、3小節目の左手ラソファ♯のラインもよく聞きまししょう。
5〜12小節め アーティキュレーションが細かく付いています。左手のワルツのリズムは書いてある通り、1拍めテヌート、2、3拍目スタッカートで。2、3拍目は小さく丸い響きで弾きましょう。手の平に音の響きが当たるイメージで。ペダルは書いてある通り1拍めのみ踏みます。5、7小節目のレ♯はアクセントが付いています。響く音で。
強さですが、第3部に再びpで現れるのと、13小節から1音下がるため、5小節目のあたりはあまり弱々しくならない方が良いですね。
6、8小節目の右手は軽やかに(5、7小節より弱く)弾きましょう。
9、10小節でクレッシェンド(特に右手)で、11小節目のド♯を響かせます。11小節め、楽譜に書いてあるクレッシェンドは左手の和音で、右の響きの中から出てきてクレッシェンドしましょう。
13〜20小節め 前の小節で左手がクレッシェンドしてきていますので、その雰囲気を保った感じで13,14小節のあたりの2、3拍目左手の内声の半音階は浮き立たせましょう。15、16小節でdim.できると綺麗です。
右手は、5小節目より気持ち弱めで良いでしょう。
18小節目でクレッシェンドして、20小節目dim.します。
19〜21小節目のバスのライン(ド♯レ♯ミ)を綺麗に聴きましょう。
21〜27小節め まだmpですが、13小節目あたりよりしっかりめに弾きます。
25、26小節めは変化があり発展の兆しが見えますね。前向きな感じでクレッシェンドしてミ♭を響かせましょう。和音の面白さを感じながら、25〜28小節めのバスのライン(ファファソ♭ソ)を意識します。
28〜36小節め 28小節目で少し弱めからしっかりクレッシェンドします。29〜32小節め右手は同じことを4回繰り返し、左手の和音の中の音が半音ずつ下がっていくことでハーモニーが変わります。和音は叩かないで、鍵盤に付けたまま掴むようにします。
強弱はfしかないため4小節ずっとfで響かせたり、fの中でもだんだん膨らませていく方法もあると思いますが、私は31小節までは攻めて、32小節目で暗めの表情、音色に変えるのが好きです。そのためには若干のルバートも必要です。
33〜34小節目の右手はとても滑らかに弾きましょう。↑のやり方ですと、前の小節で少し弱くしていますで、それに合うような暗めの表情で。2小節でrit.し、すぐa tempoとなっていますが、実際は34小節で少しゆっくり、36小節で戻ります。
〈第2部〉37〜68小節
37〜50小節め 37〜42小節めは左手がメロディー、そして右手の和音の刻みでヘミオラになっています。43〜46小節は普通の3拍子、47〜50小節で再びヘミオラになっています。
スラーのかかっているところはヘミオラのリズムを感じつつレガートで弾きましょう。
聞き覚えあります!ここにもヘミオラ!!
インベンション3番の時にヘミオラが終止のたびに出てきて、拍が引き伸ばされテンポ感が落ち着く効果があるとのことでしたが、このヘミオラは違う気がします。また第2部は変化があって印象的な部分だと思いますが、なんかパッとしません。どうしたら面白くなるかなぁ?
そうですね。インベンションの3番にも出てきました。こちらはこの場面の性格なのか、ヘミオラ部分で前に進む力が強まり、3拍子で落ち着かされるようにも感じますね。
しかしこの部分を普通の3拍子で弾くのと、ヘミオラを感じて弾くので比べてみると、3拍子の方が少し追い立てられる感じになり、ヘミオラで弾く方がやはり1拍が大きくなった分テンポ感は落ち着いているといえます。
どうしたら面白くなるか考えるなんて、doremiちゃんすごいですよ。
37〜42小節目の間は右手の刻は伴奏の扱いであまり強くせず、43〜46小節目の3拍子の間は右手の2.3 拍めもある程度打ち出していくとより拍子感の違いが出て面白くなると思います。
また、第1部ではほぼ8小節1フレーズだったのに対して、第2部では1フレーズの長さが、6→4→4→5→5→8小節というようコロコロ変わりますね。この、いびつで不規則な感じも意識できると良いですね!
51〜60小節め 50から51小節目のヘミオラから3拍子に戻るところは不安定になりやすいので注意です。52小節めはすこし弱くしてから膨らませます。
53小節1拍めは、ミとミ♭を同時に鳴らすため、ぶつかった音がします。汚いのは困りますがぶつかっている感じを楽しみましょう。
56小節は、改めて弱めてからクレッシェンドします。57小節目から60小節目までの1拍目の和音が1回ずつ強くなるようにしましょう。その際、右手の親指が半音ずつ上がっていくのをよく聞きましょう。60小節目最後にはルバートをかけ、たっぷりと次の小節に入ります。
61〜68小節め ルバートがかかっていますので少しゆっくりめからテンポを戻していきます。たっぷりと幅広い感じから入っていきましょう。
61から64小節もヘミオラになっています。音の並びはすべての音が半音ずつ下がっていくだけの単純なものですがしっかりと音を出して弾くのはにくいかもしれません。
指番号をしっかりと決めてゆっくりのテンポから練習しましょう。書いてある番号は、小学校3、4生くらいだと開くのが辛いことが多いので、私は右手はソプラノの指番号は全て54にしています。(ソプラノは繋げて、アルトは繋げないで弾く)下行形ですがだんだんクレッシェンドしていくつもりで弾きましょう。
体格にもよりますが背中を少し前に出し、腕を高めにしてしっかりと上からつかみながら弾くと、輪郭がしっかりとした音が出ます。
67小節目で和音にファのナチュラルが入り柔らかめの音色になるのを感じましょう。
〈第3部〉69〜118小節め
69〜76小節め 冒頭と同じですが強さがpになりました。右手もアクセントではなくテヌートです。表情を考えて、はじめよりは弱めに入りましょう。
85〜93小節め 89小節目で変化が現れます。楽譜に書いてある通り1拍目のレにアクセントで弾みを感じて、1度引っこんでから、91小節めに向かってクレッシェンドしましょう。91 92小節もヘミオラになっていて、さらに次の小節で2拍追加されることによって字余り感が出ますが、それがインパクトになっています。アクセントの半音階を感じて、張り切って弾きます。
94〜103小節め 再び3拍子に戻りフォルテのまま同じ音型を繰り返します。ただし左手のバスが半音行ったり来たりするのと、メロディーの8分休符が効いていてじりじりと迫ってくる感じがします。この8分休符を意識するあまり、頭を下げたり体を変に動かすとコントロールが鈍るので、指先で休符を感じましょう。
98.99小節で急激にディミヌエンドし、次の4小節で再びクレッシェンドします。和音の各音の半音の進行をよく聞きましょう。
104〜118小節め 少なくとも4小節間はfですが、力みすぎてぶつけた音にならないように気をつけましょう。1音ずつ叩いていないことを確認して(スローで、鍵盤を触ってから打鍵、というのを繰り返します。狩の歌でもsoraくんとの会話で説明したので、よろしければご覧ください)練習しましょう。
拍感を感じて、104.106.108の1拍目は弾みを感じて丸い音で。
110小節目からの和声はすべて音を鳴らした上でバランスをとりましょう。バスが弱くなりすぎないように温かみのある音色で。
今回もお読みいただきありがとうございました。
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